裁判を勧めないとき
はじめに
私どもとしては、法律を守って、その範囲で依頼者の希望をできる限りかなえたいと思っております。
しかし、依頼者にとって、私どもが、依頼者の方の希望に従って、訴訟するということは費用が発生するということです。
この費用は、決して安いものではありません。
ですので、私どもは依頼者に、適切な解決案、対応策をご提案しますが、私どもに一定の費用が発生する方法である場合は、積極的にそれを勧めたりはしません。
極端に、訴訟などを勧めることは、結局、私どもへの一定の費用の支払いを求めることになります。
費用を払う段階での判断は、依頼者様ご自身に冷静にしてもらいたいと思っております。
ですので、費用の支払いが発生する処理については、限度を超えて勧めることはありません。
逆に言えば、私どもが積極的に勧めないのは、そういう理由からであって、その方針に自信がないわけでもなければ、対応の意向が低いわけでもありません。
言ってくだされば、対応しますが、お金の支払いが発生するものである以上、こちらから積極的に勧めることを控えているだけです。
ただ、そうでなく訴訟を止めることがあります。
これは以下のような場合です。
裁判までの検討事項
事実関係と法律
裁判の希望の話があった場合、当職としては、当然、法律的に違法かどうかを検討します。
そして相手が違法であれば、まず、訴えることの検討の第一段階は、クリアとなります。
しかし、それで当然に裁判を勧めることはありません。
立証
次に立証できるかの検討になります。
ご本人の話がいくら勝てそうでも、それが裁判で証明できなければ意味がありません。
ですので、証拠を確認していきます。
そして、全ての証拠が完全に揃うというのは難しいですが、ある程度目途がつけば、訴訟の検討の第2段階はクリアです。
反論
そして、相手の反論を検討します。
ある程度、その分野の裁判を経験していると、あるいはその業務に関連する社会経験があると、相手がするであろう典型的反論が予想できます。
そこから、その典型的反論を崩せるかどうかを検討します。
これが崩せる事情や場合によってはその証拠がないと、やはり裁判に負けることになります。
これがクリアできて、訴訟検討の第3段階クリアです。
ご希望の達成可能性
その後に、訴えて、真にご本人の希望を達成できるかを検討できます。
例えば、敗訴して自主的にお金を払わない人で、かつ相手が無資力とか無職ならば、あるいは詐欺師などでお金を隠しているならば、訴えてお金を請求しても意味がないことになります。
回収するのに差押え先もなければ、逃亡や破産する可能性もあるわけなので。
また、会社で違法な降格処分に対して争う場合、会社の姿勢によっては意味がある場合もありますが、降格を取り消したうえで、さらに別の処分(地位を形式的にあげたうえで、違法にならない程度の地方に左遷とか)がされる恐れがある場合なども、希望の達成が難しいということになるでしょう。
小括
私はこれらの点がクリアできて、「初めて訴訟を起こしましょう」という話を勧めます。
弁護士の言うことが違う
余談ですが、時折、
「弁護士のアドバイスが事務所によって違う」
と言う人がいますが、1の点は、主張する法律構成が変わらなければ変わらないことが多いです。
(たった一言の事情説明忘れだけで、法律構成や結論が変わることがありますので、そういうことで変わることはありますが)
ただ、2から4の点は、各弁護士で説明の仕方の違いが生じることがしばしばあります。
私は、4の点までがクリアできないと積極的に「裁判しましょう」とは進めません。
依頼者の方側から積極的に依頼があれば対応はしますが。4がクリアできないと、裁判に勝っても、ご本人としてのメリットがないことが多いからです。
2の点がある程度クリアできないと、「真実ではあなたが正しいとしても裁判は負けるのでやめたほうが良いでしょう。ただし、相手が確実に自白するなら別ですが」とアドバイスします。
3の点がクリアできないと「あくまで可能性ですが、相手の反論で負ける可能性はありますが、それでも裁判やりますか」とアドバイスします。
そして、結構な割合で、2から4の問題で、つまり言っていることは正当なのに、ほかの事情で、訴訟を断念せざるをえない方はいます。
結論
訴訟を止めるのは、私どもも悔しく思います。
特に法的に正当なのに、ほかの事情がから、どうしようもない場合は、なおさらです。
しかし、結局はそれは依頼者のためにならないからこそ止めていることを、ご理解ください。