銀行預金の相続と引き出し(民法改正)

銀行預金の相続と引き出し(民法改正)

1 銀行預金についての預金引き出しの民法改正

はじめに

遺産として亡くなった後に、その被相続人名義の銀行預金を引き出せるか。

まず、原則として、亡くなった時点で、口座は凍結されます。

 

しかし、これでは葬儀代や最後の入院代などの支出が出来ず、不便です。

亡くなったのが夫婦で主にお金を管理している方でしたら、残された方の当面の生活費も困ることになります。

そこで民法が改正されて、一定の金額でしたら、当面のお金として、凍結中の口座から相続人がおろせるようになりました。

 

改正点

そこで、民法改正で、以下のような規定が置かれました。

「改正民法第909条の2

各共同相続人は、遺産に属する預貯金債権のうち相続開始の時の債権額の三分の一に第九百条及び第九百一条の規定により算定した当該共同相続人の相続分を乗じた額(標準的な当面の必要生計費、平均的な葬式の費用の額その他の事情を勘案して預貯金債権の債務者ごとに法務省令で定める額を限度とする。)については、単独でその権利を行使することができる。この場合において、当該権利の行使をした預貯金債権については、当該共同相続人が遺産の一部の分割によりこれを取得したものとみなす。」

記載はややこしいですが、端的に言えば、現在(令和2年12月)は「150万以下、法定相続分の3分の1」までは、遺産分割前でも銀行で引き出せるということです。

金額は法務省令で定まるものですから、時代の変遷に伴い、今後、変わる可能性があります。

 

現実には

ただ、現実には銀行窓口によっては、法改正を、よく理解していないところもあります。

銀行からすれば、相続はイレギュラーな処置で、それなりに詳しい担当者の居る銀行もいますが、窓口の人は全く分かっていないこともあります。

また、銀行によっては、専門の担当者が居なかったり、他の業務と掛け持ちで対応しているだけだったりします。

話をしても窓口で、すぐに対応してくれない場合、条文を提示して、銀行本部や上席者への確認を依頼していくことが必要でしょう。

そういうことは、本規定や相続の分野にかかわらず、イレギュラーな銀行処理ではしばしばあります。

改正前は

なお、以下は余談ですが、かつては以下のように検討されていました。

「預貯金債権」のような「可分債権」は、相続開始と同時に当然に相続分で分割相続されると最高裁判例(最高裁平成16年4月20日第三小法廷判決)では判示されていました。

少し特殊な事案ではありますが、かつて、銀行を訴えて、相続分の持ち分割合を回収したことがあります。
前記の「現実には」には記載しましたが、この時も窓口の担当者に判例をいくら説明しても、困惑するばかりで無駄に時間がかかったので、やむを得ず訴訟を提起した覚えがあります。
即座に銀行の顧問弁護士が頭を下げに来ました。
しかし、この後、以下の判例が出ました。

平成28年12月19日最高裁大法廷決定「共同相続された普通預金債権、通常貯金債権および定期貯金債権は、いずれも、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはなく、遺産分割の対象となるものと解するのが相当である」

この決定で、預金債権は当然に分割されるものでは無くなりました。

すなわち分割された自己の債権として、引き出せなくなりました。

しかし、他の可分債権の分割はどうなるのかは明確ではありません。また、当座預金なども不明でしょう。

以上、少し話がずれましたが、緊急のお金など、この令和2年の民法改正で新設された預金の一時引き出しの制度を利用するのが良いでしょう。

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