調停は弁護士に頼むべきか
調停とは
調停の依頼が時折あります。
相続や遺産分割などが中心です。
時々、労働問題や債権回収の調停があり、さらに離婚の調停もあります。賃料増額とか不動産の立ち退き、請負代金の回収などでもしばしばあります。
調停業務
調停とは、単純に言えば裁判所の中での話し合いです。
この調停、訴訟に比べれば専門性が低いので、一般的に弁護士への依頼料金は安めです。
しかし、実際には、
1回の期日の時間が2時間から半日程度かかり、期日ごとに時間が必要であること、
口頭でのやり取りですので書面とは別の意味で慎重な対応が必要なこと
交渉ごとですから、時間をかけざるを得ない場合があること
などから結構大変です。
なお、証拠が不十分や感情の対立が強いような場合、白黒つけるのが不適切な場合、調停委員の先生方の豊富な社会経験からの、アドバイスが役に立つ場合もよくあります。
時間やその他の負担
話し合いですので、終了期間や合意内容について、開始時点で読み切れないことがあります。
他に、調停の時は感情面の対立があることも多く、精神的に大変というのもあります。
私どもでも大変感じるときがありますので、依頼者の方は、もっと大変でしょうが。
調停時の心構え
そのような中で、少しでもこのリスクを減らすように、依頼者の方にお願いしているのは、訴訟になることの覚悟も持ってご依頼いただくことです。
訴訟覚悟で進める場合は、意味のない話は打ち切れますし、予測している相場にはずれる主張も強気で拒否できます。
その方が、かえって適切かつ早く話がつくこともあります。
なお、調停から訴訟に進んだ場合は、2重に着手金をいただくわけではなく、調停の時に頂いた費用に訴訟への移行分の費用を若干上乗せしていただくだけです。
調停は弁護士に頼んだ方が良いか
これについては、煮え切らない回答にはなってしまいますが、人次第、事案次第、考え方次第となります。
この問いについては、実はこれまでは、当職は「弁護士に頼まなくてもよい」と言うアドバイスを比較的多くしてきました。
これは「調停は基本は話し合いであること」と「争点を確認し、そこに焦点を当てて主張していけば、主張内容はご本人の経験した事項でよいので、問題なく対応できるだろう」と言う思いからです。
しかし、調停が生じて当初は一人でやっていた方の依頼を受任したり、法律相談後に受任しなかったが結果報告をしてくださった事案が集まるにつれ、弁護士に頼んだ方が良いことも相当にある事がわかってきました。
理由
その理由ですが、まず
①「焦点を絞って主張」と書きましたが、この焦点を絞るのが専門家でないと難しい時があります。
調停といえども裁判所の手続きですから、法律条文と、そこから、論理的に導かれる要件事実から主張すべき点が整理され、その対立点が基本的な争点になります。
本人で調停に臨んだ場合に多いのは、条文や判例は調べても、「条文に書いてあることはすべて主張しないといけない」と誤信して、不利な主張証拠を出すことが、相当にあることです。
②次に「ご自身が経験したこと」と書きましたが、ご自身としては経験をすべて話したつもりでも、その中で見落としている部分などが結構ある事があります。
第三者の視点から、聞かれることで経験が整理される側面があり、このフィルター無しで、自分の思うことだけを羅列すると主張の一部を失念することがあります。
③さらに裁判での見通しがあります
調停は話し合いで落としどころを見つけるのですが、その落としどころが適切か、裁判での見通しが出来なければわかりません。
裁判になれば絶対に負けるところで意地を張っても意味はないですし、裁判で勝てるところは安易に譲歩すべきでないでしょう。
もちろん、時には、裁判では勝てるところをあえて譲歩し、その代わりに相手にこちらが負けるところを譲歩してもらうという交渉もありますが、それにしても、裁判の勝ち負けの見通しがつくから可能なことです。
④心理面、これは意外に一番大きいかもしれません。
普段は行ったことのない裁判所、そして調停は一人での対応が必要で、友人や身内の人も一緒に対応はできません。
私どもは日常の仕事でやっていますので、あまり感じませんが、一般の方は、お一人でやっていると、これは相当に苦痛のようです。
以上のとおり、経験を重ねるにつれて、安易に弁護士抜きの調停を進めるべきでもないと思う事案も出てきました。
事案次第では、もちろん「これは弁護士抜きで問題ない」と言えるものもありますが。
いずれにせよ、法律相談はされてみるのがよいと思います。
相談したからと言って依頼しなければならないわけでは無いですし、費用は掛かりますが、調停で動く利益に比較すれば大きい金額のことは少ないでしょうので。