青色LEDと中村教授の意見について
中村教授の意見
「「日本の司法を変えないといけない」ノーベル賞・中村教授の「苦言」への弁護士の反応」という記事に、某社より依頼を受けて意見を書きました。
そこに提供した著作権に反しない範囲で、新たにまとめて、以下記載します。
「裁判所が保守的である限り日本は何も変わらない。技術者が全員海外に出ていって、日本がおかしくなるまでは真剣に考えないんじゃないか」
という青色LEDの発明者である中村教授の意見を弁護士としてどう思うかという問いでした。
上記の中村教授の意見は抽象的ですが、中村教授の意見を、忌憚なく言うと
「「研究に成功した研究者に、企業は多額の報酬を出さなければならない」という判断を司法はすべき」
ということのようです。
記載した見解
概要
「基本としてハイリスクにはハイリターン、ローリスクにはローリターンであるべき」
であり、高裁のそれまでの審理過程はよくわかりませんが、少なくとも
「高等裁判所の和解勧告額(8億)がおかしいとは思わない」
ということが一番言いたかったことです。
ハイリスクハイリターン
企業は、ある発明を成功させるために莫大な研究費を支出します。
成果が出ないこともありますが、それを理由に研究者を解雇もできませんし、ましてやかけた研究費や留学費用を返せとは言いません。
つまり、企業というものは研究開発について、ハイリスクをかけています。
当然、成功した場合は、企業全体が、ハイリターンを受けるべきです。
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では研究者はどうか。
サラリーマン研究者である限り、企業から研究費をもらい、企業のお金で留学し、会社から給料をもらい、退職金や諸手当をもらいます。
失敗した場合、窓際に追いやられるとしても生活(給料や退職金)は保証されます。
失敗しても、それまでの研究費を返すということもありません。
つまり、ほとんどリスクを背負っていません。
小括
そうやって「他人のふんどしで研究し、失敗しても知りません、成功したら自分の成果です」という意見に、私など、どうも違和感を覚えます。
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その他の問題点
優秀な研究者が海外に逃げるか
ローリターンだから「技術者が全員海外に出ていって、日本がおかしくなる」とも言っておりますが、これは一面的すぎる見方です。
ローリターンなかわりにローリスクなわけですから、成功前の若い技術者は、1年後で無く10年後の成功を目指して研究できますし、家庭の都合で技術者の道をあきらめる人も減るでしょう。
企業側も、成功時の報酬を考えなくてよいならば、その分、事前の研究費を大きくでき、才能が未知数の多くの技術者を支援できます。
必ずしも日本の技術者が減るわけでも、日本がおかしくなるわけでもないと私は思います。
むしろ、短期での結果を求められない良い研究土壌と言える面もあるでしょう。
最終成果者が総取り
それともう一つ、違和感を覚えるのは最終成果者が総取りの点です。
それと分野によっては成功までには多数人の協力、積み重ねが必要です。
その成功までに、礎になる失敗を重ねてきた他の研究者は無視して、最後に成功した人にだけ大金を与えるという点にも違和感を覚えます。
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その前提となる細かい研究や記録作成、地道なチェック、研究のための基礎物品の製造、その前提に携わった多くの研究者でなく、あおれらを集約させた最後の一人が手柄を総取りでよいのか。
このあたりも、少しひっかるところがあります。
最後に
私は青色発光ダイオードの発見は素晴らしいことだと思いますし、中村教授の人間性を知りませんから、その点を非難するつもりはありません。
あくまで一つの私見として、ある成果を評価するには、相当の水準があるのではないかと考え記載しました。
そして、その基準として、やはり素晴らしい発見であるとして8億と言うのは、相当ではないかと思います。