弁護士と経験
弁護士岡田晃朝の経験についての考え
弁護士として業務していく中で、それなりに経験が増えていくと、経験からの対応に頼ることがあります。
突発的な対処ではやむを得ないこともありますが、私はできる限り、経験だけで動くことはないように配慮しております。
重視は危険
というのも、ある弁護士が裁判できる事件は(一部の定型事案を除けば)、せいぜい年に100件程度。
事案はバラバラなので、類似事件に絞れば年に10件程度。
仮に20年経験あっても、年度がバラバラの経験がたったの200件。
到底信頼できる統計データにはなりません。
むしろ、ミスリードの材料になりかねません。
軽視もよくない
と言っても、私は経験を否定するわけではありません。
弁護士としての経験の積み重ね、それにより磨かれる判断力というものは、大変重要なものであると考えております。
ただ、それを盲信することは危険です。
社会の変遷
弁護士は社会の紛争に介入するものですし、社会は日々変わるものですから、日々勉強して成長していかなければならないと思います。
また、法律や手続きも日々変わるものですから、その勉強も忘れてはいけません。
インターネット関連の裁判など、数年前には手探りでしたし、ハラスメント関係など労働問題なども数年前より格段に話題になるようになっております。
法律も日々変更されていきます。
令和2年には、民法も、相続や時効など、相当に権利関係に絡む部分の改正分が施行されています。
リース契約の実体と約款の典型例など、企業関係の訴訟対応を何件かやっていく中で身についた側面もあります。
このように時代が変遷する中、過去の記憶や経験だけを重視しては、業務に支障が出ます。
逆に、時代が変遷する中で、新しい時代を学びつつ、これまでの過去の経験を積み重ねとして生かせば大きな武器になるでしょう。
経験というものは、その弁護士の考え方ひとつで、メリットにもデメリットにもなるものかと思います。
実際の対応
「経験から」とかいう説明をすることはできる限り控えるように」と、自ら戒めております。
法律家とは、言葉を論理的に組み立てて説明する仕事ですので、その弁護士が、説明になると「経験から」とか「一般的に業界では」と言う説明しかできないのでは問題があります。
(現実には限界はありますし。)
このようなことを書くのも、実は最近、私自身、同じセリフを私自身が口にしていることがあったからです。
そして、自分が駆け出しのころ、そういう説明をする年配の弁護士を見て、密かに「気を付けなければならない」と思っていたことを思いだしたからです(失礼なこと考えていて、すみません)。
たとえば離婚を伴う不貞の慰謝料請求など、200-300万円くらいであろうと経験的に推測できます。
しかし、この金額については「東京地裁離婚判決に見る離婚給付の額・方法と決定基準」(判タ 788号6頁)に記載がありますし、千葉弁護士会の「慰謝料算定の実務」の調査では、200万円が最多とされています。
このように、経験からある程度分かることでも、根拠や統計を確認し、説明主張していく。
これが弁護士には求められていると、私は考えております。
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一つずつの仕事で得ることができる経験は大切にしながら、それ以外の統計データや裁判例、最新の変動事情まで、総合的に判断して対応したいと思っております。