法律相談では真実を告げる
初めに
たとえば、病院に行ったとします。
極端な例ですが、がんの患者がいたとします。
治療の見込みが手術をしなければ0パーセント、手術をすれば30パーセントであったとしましょう。
ここで、医師の対応として、本人にはがんを告知せずに、
「とりあえず手術しましょう、そうすれば大丈夫ですよ。」
と伝える医師もいるかもしれません。
逆に
「あなたはがんですので、手術しても治療は30パーセントの見込みです」
と事実を正確に伝える医師もいるでしょう。
どちらがよいかは、端的には言えません。
弁護士事務所では
弁護士事務所でも、類似の問題はあります。
裁判で事実の真実を争うのですから、医師が、がんを隠すように完全に事実を告げないことはないですが、事実は告げながらも結論の予想において
分かれます。
私(西宮の弁護士 岡田晃朝)は、どちらかというと後者です。
もちろん、言い方は配慮しますが。
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というのは、
①裁判では前述のように、事実の真実性を争うので、事実評価と結論を冷静に告げておく必要があると思われること
②弁護士の対応するトラブルは、医師のように、励ますことで回復する可能性があるものではないこと
③お金を払うのは、本人である以上、勝てるかのようにミスリードして裁判を勧めてお金を払わせるのは嫌であること
からです。
経験だけでは告げないように
弁護士として業務していく中で、それなりに経験が増えていくと、経験からの対応に頼ることがあります。
しかし、これは適切ではありません。
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というのも、ある弁護士が裁判できる事件は(一部の定型事案を除けば)、年に30-50件程度。
事案はバラバラなので、類似事件に絞れば年に5件程度。
仮に20年経験あっても、年度がバラバラの経験がたったの100件。
到底信頼できる統計データにはなりません。
むしろ、ミスリードの材料になりかねません。
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と言っても、私は経験を否定するわけではありません。
弁護士としての経験の積み重ね、それにより磨かれる判断力というものは、大変重要なものであると考えております。
ただ、それを盲信することは危険です。
経験だけで行動すると、自分の経験した過去の一部の慰謝料を基準に行動してしまい、誤った対応の危険上がります。
一つずつの仕事で得ることができる経験は大切にしながら、それ以外の統計データや裁判例、最新の変動事情まで、総合的に判断して対応したいと思っております。
そういえば、先日、友人から、「経験から、スパッと答えてくれる弁護士は、なんとなく頼れるように思う」「相談のたびに条文や本を確認する弁護士は大丈夫かな」という気になるといわれました。
一般にはそう見えるものなんですね。
もっとも、実際にはわかりきった条文とか、有名な判例でも、毎回確認する弁護士の方が、信用できるように思います。
私も、実は依頼者の前で堂々と回答するときでも、相談前に相談概要を予約時に聞いて、その後に調べていたりします。
気持ちは分かっております。
ご相談者の方の希望は、大体質問の仕方や立場からわかっております。
相談者の方が喜ぶ回答は、わかります。
何らかのトラブルがあってきている以上、「貴方が正しい、訴えれます、勝てます、たくさん賠償させれます、相手に謝らせましょう」と言った回答が喜ばれるでしょう。
また、私どもとしても、そういう回答を連発して依頼の契約になれば、多くの依頼が得れます。
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しかし、そういう依頼者の気持ちに反してでも、そして私どもの事務所の利益を検討する前に、専門家としての冷静な見通しを告げなければなりません。
ですので、相談者の方の気持ちは出来る限りくみ取りながらも、回答は冷静・ドライなものになります。
私どもも出来る限り、希望に応えたいと思いながら、否定的な回答することがあるのは、そういう専門家としての視点からのやむを得ないものとご理解ください。
結論
もちろん勝訴の見込みが30パーセントでも全力はつくしますが、勝訴の見込みが30パーセントという確率の面で虚偽を告げようとは思いません。
なお、依頼者が嘘をついたときは別にして(その場合は辞任するので結論は知りません)、それ以外で私が依頼者に伝えた裁判の判決見込のパターンの中に結論が収まらなかった判決は、1パーセント以内です。
ですので、まあ、見通しは正確な方だと思います。