預金債権などの相続時の対応
1 初めに
相続財産はいろいろな形で保管されています。
税金や分配の難易、相続人や被相続人の希望、被相続人の亡くなるまでの生活などに応じ、不動産、動産、有価証券や現金、預金などいろいろな形で相続財産は残されています。
その中で、相続財産として残されている預金の取扱いについて少し話します(平成の頃の話です。現在、対応変更されているものがある可能性はあります)。
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預金は預金先によって、相続時の取り扱いなどに煩雑な場合がございます。言い換えれば慎重な対応とも言えますが。
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ゆうちょ銀行。
郵便局・ゆうちょ銀行は、当事務所もいろいろとお世話になっております。
窓口の人はいろいろ気を使ってくれますし、郵便も保険も同時に扱っていますし、あちこちにあって便利で、地元に密着して頼りになる面もあります。
しかし、こと相続の取扱いについては、本当に問題が多いです。
・問題点①
他の銀行ならば、本人が死亡したら、電話したらすぐに口座凍結できるのに、なぜか郵便局だけは窓口に行かなければなりません。
早急に凍結できなければ、遺産が無断で引き出される危険がありますが、そこへの配慮はありません。
しかも、ゆうちょ銀行のみ、凍結に亡くなった人の通帳が必要といわれることがあります。
口座凍結は、通帳や印鑑、キャッシュカードを取り込んだ人などが、本人が亡くなっているのにお金を無断で使い込まないためにするという一面があります。
それなのに、凍結に通帳が必要では本末転倒です。その通帳を取り返す間の使い込みを防ぎたいのですから。
・問題点②
かんぽ保険の解約など、裁判所の調停調書があって対応しません。
何度も確認したのですが、なぜか、相続人全員の実印押印書面と印鑑証明をもってきてほしいと言われます。
調停しているのは、親族の関係が悪いからなので印鑑証明をもらうのなど大変です。
そもそも、法治国家の中にある機関なのに、裁判所が公的に作成した書面が受け付けられないのは、驚きです。
・問題点③
保険の還付金、相続後の預金は、なぜかゆうちょ銀行にしか振り込めません。
一時的にでも預金を増やすためか、そのまま置いておいてもらえると思っているのか、わかりませんが、大変不便です。
私も遺言執行する際は、一旦ゆうちょ銀行に移してから、別銀行に転送するという取扱いを余儀なくされています。
・問題点④
「遺言執行者」として預金の管理に関して連絡してたら、「相続人の一人を連れてきてもらえれば話が進みやすい」などと案内されたことがあります。
相続人を連れて行ったら、相続人の話をきいて対応するとすれば大問題です。
法律上、遺言執行者がいるときは、相続人の行為は一切無効で、遺言執行者に全権限があります。
民法 第1012条 遺言執行者は、相続財産の管理その他遺言の執行に必要な一切の行為をする権利義務を有する。
民法 第1013条 遺言執行者がある場合には、相続人は、相続財産の処分その他遺言の執行を妨げるべき行為をすることができない。
これはたまたま担当の方が勘違いしたのかもしれませんが、遺言執行者を置くのは、特定の相続人では信用できず、遺言作成者があえて専門家などを雇っている場合もあります。そのような場合を考えると、この辺りは慎重な対処が期待されるでしょう。
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銀行の郊外や地域の支店。
同じ銀行でも、ある程度都市部で規模の大きいところに行けば、そうでもないのです(おそらく規模的に専門の担当を置けるからでしょう)が、地域や郊外の支店によっては相続になれていないのか、専門の担当者が置けないからか、いろいろ問題があることがあります。
・問題点①
まず、上記ゆうちょ銀行の問題④の案内は、銀行の地方支店でもされたことがあります。
説明すれば、すぐに改めてはくれましたが、相続担当の部署で民法1012条、1013条を知らないことに驚きです。
条文自体は知らなくても、銀行内のマニュアルに載せて、最低限の研修はしてほしいです(個別のご担当の方を非難するものではありません、組織の問題ですので)。
・問題点②
同じ銀行で、同じ人から同じ人へ相続で、都市部の支店と地方の支店と両方で手続きしたことがあります。
その際、都市部の支店では問題なく処理されたのに、地方の支店では、明らかに不要な書類や印を要求されました。
結局、地方の支店の担当者は、いちばん基礎的なマニュアルに書いてあることを読み上げていただけのようですが、各書類の必要性にはそれぞれ理由があります。
適切に理解できていないと、煩雑であるだけでなく、トラブルを拡大させる危険があります。
・問題点③
処理が遅い。
慎重な手続きのためならわかるのですが、明らかに早い処理のところと遅い処理の銀行があります。
これも地方の支店の方が遅い気がします。
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各銀行でも、対応は非常に丁寧ですし、いろいろ配慮はしてくれます。
間違いについては、折り返しの電話ですぐに改めていただけました。
皆さん、担当者個人の方は、良く取り組んでくださっているとは思うのですが、組織として、あまりに不便であったりします。
まとめ
弁護士としては、現時点で相続財産を預金としておいておくのであれば、主要な都市部の銀行支店が一番よいように思います。
地域的な利便性では、ゆうちょや農協などの方が便利であったりはしますが。
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余談ですが、遺言執行者は、自分が死亡した後のトラブルを避け、確実な遺言執行を目指すならば弁護士に、節税なども考慮し税務処理をしてもらいたい場合は税理士に頼むのが良いでしょう。