契約と口約束

契約と口約束

口約束と契約

口約束で契約が成立するか

口約束でも法律上の契約が成立するでしょうか。

これは民法に明確に定められています。

民法(契約の成立と方式)
第五百二十二条 契約は、契約の内容を示してその締結を申し入れる意思表示(以下「申込み」という。)に対して相手方が承諾をしたときに成立する。
2 契約の成立には、法令に特別の定めがある場合を除き、書面の作成その他の方式を具備することを要しない。

 
この民法522条2項にあるように、原則は書面によることは不要です。
 
(連帯保証や下請法など一定の例外的な場合があります。また民法上、契約としては有効でも、他の法律上、作成保管が義務付けられている書面もあります、ご注意ください)。
 

口に出せば契約か

では、口で返事すれば、常に契約が成立するかというと、そう単純ではありません。
 
契約が成立するには、その契約の法律要件になることについて、相互の意思表示の内容が、真意において合致していなければなりません。
 
会話の流れでの生返事、食事中の戯言、ただの相槌では契約は成立しません。
 
法律要件が欠いている内容での合意でも足りないでしょう。
 
この辺り勘違いされている方はしばしばおり、「数十分の会話の中で、たった一言返事したこと」を録音して、「合意の証拠があります」とおっしゃる方が、しばしばいますが、裁判などでは認められない場合も多いです。
 

実例

よくあるのが交通事故。
 
事故直後は、相手にお詫びするのは普通ですし、「出来る限りの賠償はさせていただきます」程度のことを口にするのは、よくあることです。
 
しかし、これで全額賠償の示談が成立したことにはなりません。それどころか賠償を約束したことや、自分の過失が大きいことを認めたことにもなりません。
 
あるいは遺産分割や離婚。
 
話の流れで、例えば一部の財産の処分はいったんは応じるようなことを口にしても、結局は最終合意に至らなければ意味はありません。
 
他にも不動産の売買など、社会常識的に書面作成が当然のものについては、書面が無い場合に「真の合意」がされたと認められるのは、相当に難しいです。
 
労働問題などでも、この種の話はよくあります。
 
これらに対して、日常の発注や請負は、契約書が無くても発注書や請書くらいはあることが多いこと、実際に現地で仕事をしたり商品を納品したりという動きがあることが多いことから、口頭での契約自体の成立が争いになることは、感覚的には少なめな気はします。
 
しかし、それでも商品の品質や瑕疵を巡っては、口頭で説明合意済みかとか、契約条件や期限はどの範囲かについて、争いが繰り広げられることがあります。見積額の拘束力などについても争われたりします。
 
 

結論

口頭でも契約は成立しますが、法律要件についての任意の真意での合意が必要です。
 
もちろん、録音記録をもって、証拠にするのは良いですし、一定の意味は持つことが多いです。
 
また状況や内容によっては決定的な証拠になることも無いわけではありません。
 
ただ、それだけで常に勝てるものになるのは限られていると考えておいた方が良いでしょう。
 
あさがお法律事務所
 

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