弁護士の限界(受任できないとき)
目次
弁護士の業務上で辛い時
困ってるのがよくわかるのに、いい解決策がないときが一番、この仕事でつらいです。
実際に、そういうことはしばしばあります。
諸事情を考慮して、対応が困難な時、それをお断り説明するときが、もっともこの仕事で嫌なときです。
受任義務
弁護士には、事件の受任義務がありません。
逆に受任拒否義務はあります。
弁護士法25条、弁護士職務基本規定27条、28条など
(余談ですが医師は、医師法19条により、診察、治療の義務があります。)
対応の限界
①勝ち目が全くないとき
主張自体法的に成立しないこともあれば、法的に成立しても証拠がなく後日の確保も難しいような場合があります。
被告の場合はそれでも応訴しなければならないことがありますが、原告の場合、そういう訴訟を行うと、単なるトラブルメーカーになるだけです。
原告本人にも無駄に費用を使わせることになります。
裁判ごとですので、わずかな可能性にかけることはありますが、そもそも全く法的主張が無理でしたら、対応できません。
法律上の限界
法律が無い時
そもそも法律がないような場合、どうしようもないことはあります。
また、違法とみられることは、いくら希望されても対応することはありません。
法律はあるが手続規定が無い時
この辺りは専門家でないとわかりにくいですが、法律があって違法であっても、個人を救済する規定が無い場合があります。
行政機関内部の法規で「してはならない」と定めてはいるが、違反してもそれを止める手続きがない場合などです。
証拠が全くないとき
たとえば、依頼者の方が、「お金を貸している」と言っても、借用書はない、領収書もない、銀行の振込み記録もない、返還請求のメールやそれに対する相手の回答もない、交渉の録音もないし、借入れを記載した簡易なメモすらない、というような状況では対応が困難です。
依頼者の方の発言を疑うわけではないですが、全く根拠がないと、私どもも動くのに躊躇します。
もっとも、この点は、じっくり相談や打ち合わせをすれば、ご本人も気づいていない証拠が出てくることはあります。
しかし、十分に打ち合わせしても、全く根拠になる証拠が出てこないような場合は、依頼者の意向があっても対応できないことはあります。
②一応法律内でも反道義的、反社会的な主張の場合
これは弁護士としての社会における職務上の地位から、いくら依頼者が希望しても対応できないことがあります。
内容的には相当でも、その対応方法の希望によっては、お断りすることもあります。
このように仕事を選ぶかのように書くとお金が十分にあるかのようですが、そうではありません。
しかし、最低限のモラルのある仕事はしたいと考えております。
あさがお法律事務所では、トラブルメーカー、違法な主張を平気でする人、誤った行動を開き直って口にする人の依頼は受けません。
こっちでも脅しいれるから取り立てに行ってほしいとか、賃借人をマンションのカギを変えて追い出すとか、その他違法な行動を止めてもやめていただけない場合は対応できません。
もちろん、違法であっても、その点は反省し、不必要に極大な請求から守ってほしいというような依頼は受けます。
なお弁護士法1条の弁護士の使命には、以下の規定があります。
第一条 弁護士は、基本的人権を擁護し、社会正義を実現することを使命とする。
2 弁護士は、前項の使命に基き、誠実にその職務を行い、社会秩序の維持及び法律制度の改善に努力しなければならない。
このため、使命に反する依頼は受けることが出来ません。
また、弁護士法2条には以下の規定があります。
(弁護士の職責の根本基準)
第二条 弁護士は、常に、深い教養の保持と高い品性の陶やに努め、法令及び法律事務に精通しなければならない。
このため、弁護士としての責務に反する依頼も受けることが出来ません。
③相手が無資力、回収できても収支がマイナスになる場合
裁判は勝訴して取り立てるものですから、相手が無資力であったり破産しそうな場合は、差押えが出来ず回収できないことがあります。
実は、この場合は相当に多いです。
相手が破産することが間違いない場合とか、相手が全く無資力の生活保護者とか、詐欺師で逃げてしまってどこにいるかわからないなどの回収が困難な場合。
あるいは、名誉棄損や不貞などで立証も回収もできるが、調査費用が莫大な金額がかかり、回収できてもマイナスなど。
この場合は、依頼者の方が、リスク覚悟で、依頼をしたいということでしたら対応します。
ただ、十分に説明すると、やはり諦められる方も多いですね。
実際に、訴訟をしても依頼者もメリット無く費用だけをかけることになりますので
④お支払いが厳しい
あさがお法律事務所(西宮)では、着手金の分割払いなど、支払いが困難な方のために対応しております。
ご相談に応じて可能な範囲では、いろいろな支払い方法の配慮はしております。
しかし、それでも、裁判費用というものは、相当にかかります。
このお金が用意できないと対応できません。
⑤弁護士の専門外/取扱い外
専門外の場合は対応できません。お電話の段階で、お伝えしておりますが、相談してみないと具体的に専門外かどうかの判断ができない場合もあります。
また、一部の分野については、相談には対応しておりますが、具体的な手続きについて、取り扱いを行っていない場合があります。
なお、まったくの専門外のことが判明したときは、相談料もいただいておりません。
⑥遠方すぎる場合
極めて遠距離の場合、対応できないことがあります。
私も福岡や群馬、福島あたりまでは裁判に行ったことはあります。
が、過去に仙台の時に2件、鹿児島で1件、沖縄で1件遠距離過ぎて対応できなかった時があります。
なお、これらの場合も、対応は絶対にしないというわけではないのですが、往復飛行機代と宿泊費+出張費のご負担を頂くので、対応が現実的でないことが多いです。
⑦ご本人がご希望でない場合
これは親族に連れられて相談に来た場合にあります。
ご親族といる中で、生返事をしたり、一応は依頼するかのような言動をするのですが、実際に弁護士が一対一で詳細にお伺いすると、希望していないという場合です。
親族に強く勧められて、その気はないけど連れてこられたというような場合に多いですね。
なお、ご親族の方がご本人に付添って来ること自体は、何の問題もないです。
弁護士事務所と言うものに一人では行きにくいという心境は理解できますし、また、法律分野や経済分野に強い友人がついてきてくれた方が話がスムーズになりそうと考えられる方がいるのも理解できます。
年配の方などでしたら、付添の方がいないと出歩くのが難しいということもあるでしょう。
ですので、付添自体は、歓迎しております。
⑧多忙で対応が困難な場合で急ぎの対応が必要な場合
年に数回ですが、弁護士に依頼が連続して受けれないときがあります。
そういう場合でも、顧問先については、受任できる余裕を残してありますが。
この場合は責任を持った処理のために、一時的にお受けできません。
結語
以上のように、依頼をお受けすることが難しい場合はあります。
しかし、それでも法律相談に来てくださった以上は、できる範囲でのアドバイスは行います。
証拠が厳しくても主張がもっともな場合は、調停を起こしてみることやそこでの主張や方法をアドバイスしたり、
費用が厳しい方には、訴訟での主張すべきポイントを、ご自身でやってみれるようにアドバイスしたり、
事案によっては、交渉方法や書面の作成の仕方などのアドバイスをすることもあります。
また、対応に限界がある事案は、限界を告げて、依頼者に余計ない費用を使わせない、気持ちを切り替えるための区切りをつけるアドバイスをすることも、大切な仕事だと思います。
依頼にならなくても、法律相談料の5000円+税はいただく以上、それ以上のメリットは持ち帰っていただきたいと考えております
それがプロの仕事ではないかと思っております。
なお、時折、「いくら払ったら受けてくれますか」と聞かれることがありますが、お金のの問題でないので、受けることができない事案は、いくらいただいても受けれません。