初めに
遺産分割には時間的限界はありません。
遺留分減殺請求が絡む場合や相続放棄については別ですが。
このため、長期放置される方が稀にいますが、いくつかの問題が生じます。
1 数次相続を重ねる場合
3代から4代にわたる相続があることを数次相続と言います。
このような事案では、戦後に失効した法律関係を前提にした契約が元の話が残っていたり、時効を主張するにも援用相手を確定させるのが難しかったりと大変複雑になります。
このため時間はかかりますし、費用も掛かります。
過去の相談者の方の中には、費用と時間、リスクを告げたところ、諦められた方も数人おられます(と言っても、放置したままになるので、解決はいずれ必要でしょうが)。
事情が分からなかったり、思い込みがあったりして、かえって紛争が激化することもあります。
また逆に言い分があっても立証できないこともあります。
2 財産の使い込み
これも長期放置した場合に起こりやすいです。
このような法律相談は、しばしばあります。
使い込みには大きく分けて、相続前のものと相続後のものに分けれます。
それぞれについて、対応を検討してみます。なお、以下は遺言のない場合を想定して記載しております。
相続前の場合
相続前の使い込みについて、これを指摘した場合に使い込んだ側の言い訳にはいくつかのパターンがあります。
そのうち、よくあるものが、使い込みなどしていないというもの、あるいは使ったが本人の同意を得ていたというものなどです。
①「使い込んでなどいない」という言い訳は、相手が被相続人の預金通帳を管理していた事実をあげ、銀行に過去の取引履歴をとり、支出の履歴を確認するなどの方法で、反論が可能です。
これらの事実をもって使い込みについて、被相続人(亡くなった方)の生前に、不法行為や不当利得の返還請求権が被相続人に発生していたとし、その請求権を相続したとして主張していくことが考えられます。
②次に、本人同意を得ていたという弁解については、それを否定すると同時に、仮に同意を得ていたとしても、「その部分は特別受益である」との主張が検討出来ます。
特別受益とは、相続人の一人だけが特別にもらったものについては、公平の点から相続財産に戻して計算する必要があるとされているものです。
もっとも、その計算は相続財産の範囲ににとどまるなど、一定の制限もありますので、全面的に戻せるわけではないです。
相続後の場合
まず、亡くなった時点で、使い込みがされないように、口座を凍結することが重要です。口座凍結につきましては、電話でも可能なことが多いです。
①凍結が間に合わず、使い込まれてしまった場合は、使い込んだ人を相手にした訴訟を検討します。
相続終了後に使い込んだ場合、本人の同意を得ていたなどの弁解を相手がしても無意味です。
亡くなった後の処分については、遺言で明確にされていなければ、口頭でいくら頼まれていたなどと言っても、遺産分割協議を経ていない以上、不当な使い込みです。
使い込んだ相手に、不法行為や不当利得として、返還請求の訴訟が検討できます。
また、遺産分割調停(裁判所での話し合い)を起こして、当事者でその点も含めて、使い込んだ分のお金も存在するものとして話合い、清算することも可能です。
(厳密には相手に話し合いを拒否されれば、訴訟しか無くなります)
訴訟にするか調停にするかは、争いとなっている金額の大小や当事者の関係や性格、証拠の内容などから総合的に検討する必要があるでしょう。
3 特別受益や寄与分の時効
長く放置すると、特別受益や寄与分が主張できなくなり、正当な権利の回復が出来なくなります。
総括
相続に関する紛争は、被相続人がなくなっていることから、遺産や証拠が散逸する前に早急に行動をすることが重要です。
遺産紛争が生じそうな場合、依頼するかはさておき、当面の対応のアドバイスを受けるためだけでも、弁護士へ早目に相談されるのがよいでしょう。